
正確な創業時期は定かではないものの、大正15年頃には確実に存在し、少なくとも100年以上の歴史を持つとされる東山区の銭湯「大黒湯」。かつて花街の芸舞妓さんたちにも愛されてきたこの銭湯は、設備の老朽化や前店主が高齢のため一時は廃業となってしまいました。しかし、現店主の竹林昂大さんが27歳の若さで引き継ぎ、再開を果たしました。

人力車の俥夫として7年間この地域を走り、観光業を通じてまちにお世話になってきたと話す竹林さん。大黒湯の廃業によって、仕事終わりに遠方の銭湯までタクシーで通わざるを得なくなった芸舞妓さんや地元の常連さんたちの姿を目の当たりにし、「お世話になったまちに恩返しがしたい、この場所を絶対になくしてはいけない」と決意しました。銭湯経営のノウハウを持つ「ゆとなみ社」の全面的なバックアップと、所属していた「京大銭湯サークル」の仲間たちの手を借り、3ヶ月間徹底的に清掃・補修を重ねて営業再開を果たしました。番台には地元の常連さんからの感謝の言葉と、毎日のように差し入れをもらう関係性ができているなど、再開から約1年で地域に愛されている様子が伝わります。

コミュニティに属すると、役割や責任を持つことが前提となりがちですが、銭湯のコミュニティは誰でも気軽に来ることができ、肩書や年齢、職業など関係なく、対等な立場で交流できる、または交流しなくても同じ体験を共有できるコミュニティであり、これが銭湯の魅力だと竹林さんは語ります。

大黒湯がある東山区は京都市内でも最も高齢化率の高い区の一つであり、子どもの数も少なく、お客さんの多くも高齢の方となっています。そこで、大黒湯ではスタッフの多くが大学生であることを活かし、銭湯の2階のスペースで子ども向けの学習支援「寺子屋大黒湯」を開始し、勉強後に大学生スタッフが子どもたちと一緒にお風呂に入る取組を始めました。「みんなで楽しく勉強してお風呂に入る経験をすることで、銭湯は楽しい場所だと思ってくれたら」と竹林さんは語ります。常連のおじいちゃんおばあちゃんたちに入浴マナーを教えてもらいながら交流することで、通学路で挨拶をするようになるなど、地域の多世代交流や顔の見える関係づくりにもつながっているのだそうです。
常連さんの居心地のよさは壊さないという軸を守りながらも、若い世代や学生を呼び込むジャズライブやDJイベントの企画も行っています。また、災害時に地下水を活かした支援拠点、AEDの設置構想など、まちの防災拠点としての役割も目指しています。これまで当たり前のように存在していた銭湯の価値を高めていきたいと意気込む竹林さんの挑戦は、地域と銭湯の新しい未来を明るく照らしています。